日本都市学会第49回大会報告

 日本都市学会第49回大会は、2002年10月25日・26日の両日にわたって、愛知県西春日井郡西枇杷島町役場および町民会館において開催されました。大会テーマは「都市と危機管理」、2000年9月の東海豪雨の際に町のほとんどが水没した西枇杷島町における大会だけに、町民の関心も高く、これほど多くの一般参加者が、研究発表会場まで熱心に参加した大会も珍しいのではないかと思われます。
 日本都市学会初の「市ではない」「町における」大会でしたが、町をあげての歓迎と役場全部を大会のために開放していただいた町当局には心から感謝申し上げます。研究発表の第1会場は、町の本会議場を使用しましたが、議員席に座って発表を聞く学会員にとっても楽しい経験だったのではないでしょうか。

  


 日本都市学会第49回大会テーマ

                  都市と危機管理

                               日本都市学会会長 北 川 建 次
                               中部都市学会会長 加 藤   晃

 都市はその成立以来、幾多の災害を経験してきた。都市の歴史は災害の復旧と再建の歴史といっても過言でない。そのことが、都市の発展を促してきたといってもよい。しかしながら、現代都市の大規模化と高齢化、情報化などによる質的変化は、かつて経験したことのない規模と内容の災害を招きつつある。
 高度経済成長期以降、都市型災害として注目されたのは、1978年、仙台市を直撃した宮城県沖地震であるといわれている。1995年の阪神・淡路大震災は、世界中に衝撃を与え、現代の巨大都市を襲った直下型地震の被害の大きさと問題の複雑さを明らかにした。2000年の東海豪雨では、巨大都市が被る浸水被害の大きさを改めて知ることになった。さらには、予知の可能性を試される東海地震の恐怖が迫っている。
 宮城県沖地震、阪神・淡路大震災、東海豪雨のいずれの都市型災害も予測能力の限界を知ることになり、危磯管理の仕組みや対応策のまずさを浮き彫りにし、さらに、その後の復興への歩みが困難なことを知ることになつた。
 都市と災害について専門的な立場からの研究は活発である。なかでも、土木、建築、都市計画といったハード系領域では、災害を契機として構造物などの耐震基準を強化し、復興都市計画を立案・実施してきた。しかし、都市全体を包括し、各研究分野から、都市が受けるであろう未知の災害に対処できるような、予測から危機管理についての研究関心や、防災と避難、その後の生活維持と生活の保護などへの関心は薄かったといわざるをえない。
 被災体験や被災経験は、復興への方向を示唆するとともに、市民運動やボランティア活動、生活再建のあり方、市町村境界の問題、救急医療体制、こころのケアの問題、障害者や高齢者の被災の特殊性など多分野にわたり、都市の学際的調査研究の必要性を明示している。今後はまちづくりや地域活動のなかでの防災意識、地域の危機管理への取り組み、災害情報の伝達、災害報道におけるメディアの社会的な役割などについての論議が求められる。
 日本都市学会が都市防災をテーマとしたのは、1982年の「都市と災害」、1995年の「都市の文化と災害」の2回である。前者は長崎県の土石流災害、後者は阪神・淡路大震災を受けたものである。3回目となる本大会は、2000年の東海豪雨の際に全町のほとんどが水没し、その後の復興にあたって地域構造が大きく変貌しつつある愛知県西枇杷島町において開催する。「都市と危機管理」は、西枇杷島町民はもとより名古屋市をはじめ周辺市町村にとっても重大な関心事であり、研究成果への期待は大きい。
 この大会において、多くの研究発表と活発な議論を通じ、防災意識や危機管理意識が日常生活において常に新鮮であり続け、意識の高揚や技術の向上に寄与し、21世紀の「都市学」成立への論議が活発になることを期待する。




日本都市学会第49回大会
プログラム


テーマ:都市と危機管理

2002年10月25日(金)・26日(土)

主催
日本都市学会・中部都市学会・西枇杷島町
尾張中部地区広域行政圏協議会

後援
愛知県・国土交通省庄内川工事事務所
西枇杷島町教育委員会・西枇杷島町議会
西枇杷島町町内会連合会

会場
愛知県西春日井郡西枇杷島町役場・町民会館
452-8503 愛知県西春日井郡西枇杷島町花咲町84番地
TEL 052-501-6351 FAX 052-504-2655




10月25日(金)                         西枇杷島町民会館ホール

9:30〜    受付開始
       参加費 1,000円、資料費 1,000円、懇親会費 5,000円(学生 3,000円)
エクスカーション参加費 1,000円

10:00〜10:10 開会挨拶 日本都市学会会長  北川 建次
                中部都市学会会長  加藤  晃

10:10〜10:30 特別講演1

「災害復興への道」
西枇杷島町長 近藤 勝美
    

10:30〜11:20 特別講演2

「静岡県における地域防災力の強化策」
静岡県防災局防災政策室 杉山 隆通
    

11:20〜11:40 日本都市学会賞(奥井記念賞)授与式

11:40〜12:00 日本都市学会総会

12:00〜13:00 昼 食(自由)

13:00〜13:50 特別講演3

「災害情報に求められるもの」
NHK解説委員 山崎  登
    

13:50〜14:50 特別講演4

「東海豪雨に学ぶ都市の危機管理」
群馬大学助教授 片田 敏孝
    

15:00〜17:00 エクスカーション(貸切バス、町民会館玄関に集合)
          新川・庄内川激甚災害特別事業現場および美濃路町家地区視察

17:30〜19:00 懇親会(西枇杷島町民会館ホール)
          特別出演 西枇杷島(杁西町内会)山車神楽ほか

10月26日(土)                   西枇杷島町役場・西枇杷島町民会館

10:00〜12:00 研究発表T

研究発表1 都市の再生と危機管理の視点から1   第1会場 西枇杷島町役場議会本会議場
 司会 北原理雄(千葉大学)・山田誠(京都大学)
11. コミュニティ研究PARTZ 地域の危機管理は可能か(丹羽弘行)
12. 危機管理と大都市化・分都市化(戸所 隆)
13. 災害救援とボランティア活動−災害救援の主体としてのボランティア−(菅磨志保)
14. 有珠山噴火災害と住民参加運動−災害地を観光資源に変容させた住民運動−(中鉢令児)

研究発表2 都市の存在意義と政策的視点から1  第2会場 西枇杷島町役場第1委員会室
 司会 長尾謙吉(大阪市立大学)・服部金圭二郎(アーバンアメニティ研究所)
21. 「杜の都・仙台」の場所イメージと<都市樹>のトポロジー−都市の「現在」を考える一つの試み−(武田篤志)
22. 歴史的遺産と都市的「伝承」の諸相−仙台・伊達政宗ゆかりの都市祭礼から−(高橋雅也)
23. 仙台市における都市の呼称と都市アイデンティティ(和泉 浩)
24. 都市と地域と公共性(家木成夫)

研究発表3 都市構造の変容と問題解決の視点から1 第3会場 町民会館会議室
 司会 小長谷一之(大阪市立大学)・竹内伝史(岐阜大学)
31. 戦間期イギリスの都市計画と再建プラン(安田 孝・岡 樹)
32. 情報化の都市構造に与える影響に関する考察−テレワーク・SOHOの視点から−(松村茂)
33. まちづくりには何が必要か−マーケティングの視点から−(松本行真)
34. 地方都市中心商店街の現況と対応の可能性(千葉昭彦)

12:00〜13:00 昼食(自由)

13:00〜17:30 研究発表U

研究発表4 都市の再生と危機管理の視点から2  第1会場 西枇杷島町役場議会本会議場
 司会 浦野正樹(早稲田大学)・佐藤圭二(中部大学)・日野正輝(東北大学)
41. 被災市・神戸市財政の現状と課題(中島克己)
42. 東海豪雨と東海地震(太田淑孝)
43. 災害に対する都市計画のあり方〜2000年西枇杷島町の水害から〜(櫻井俊和)
44. 「東海豪雨」のさいの自治体の情報収集と対応行動−愛知県春日井市の事例を中心に−(林上)
45. 東海豪雨の被害と浸水対策/半田市の事例(瀬口哲夫)
46. 水害に対する住民の対応行動と災害意識に関する要因分析(及川 康・片田敏孝)
47. 災害情報と被害軽減(浅田純作・片田敏孝)
48. 水災シナリオに即した浸水情報の提供〜危機管理と減災を目指して(山田哲夫)

研究発表5 都市の存在意義と政策的視点から2  第2会場 西枇杷島町役場第1委員会室
 司会 阿部和俊(愛知教育大学)・神山和久(北九州都市協会)・高田弘子(都市調査室)
51. 都市政策形成と市民参加−男女共同参画計画づくりの実践をとおして−(槇石多希子・村山浩之・松本大)
52. 都市政策形成と市民参加−エンゼルプランづくりの実践をとおして−(高橋満・佐藤友秀・奥山和司・渡辺寛子)
53. 計画実務におけるノーマライゼーション概念の考察−静岡県下の事例から−(増田金重)
54. 企業家主義的都市の台頭とローカル・ガヴァナンス(末良 哲)
55. 地方債発行と景気調整機能(兼子良夫)
56. 地方公共団体の姉妹都市としての国際交流と課題(油川 洋)
57. 「東海圏」労働市場の特徴と日系外国人労働者の地域的展開(大久保武)
58. 民主的統制と監査型NPO−市場制度を超えて−(岩田若子)
59. NPOとパートナーシップ事業−東京都世田谷区の調査から−(和田清美・小笠原尚宏)

研究発表6 都市構造の変容と問題解決の視点から1 第3会場 町民会館会議室
 司会 伊豆原浩二(豊田都市交通研究所)・檜槇貢(作新学院大学)・由井義通(広島大学)
61. 日常性購買行動の住宅地背景型商業集積地選択に関する研究−集計型ロジットモデルを用いて−(出島甫信・大枝良直・上村寿志)
62. 視覚障害者の道路横断面におけるバリアフリー対策について−東京都・兵庫県における実証的研究を踏まえた基準化への提案(麦倉 哲)
63. 地方中核都市周辺地域における住民意識と土地利用のあり方(女屋勝啓)
64. JR大阪駅周辺地域における空間的変化−茶屋町地区を中心に−(小原丈明)
65. 家族構成と建築動態 モデルコミュニティ洞岡村の研究その2(北村速雄・九十九誠)
66. 都市化地域におけるため池水辺環境とその整備−大阪府におけるため池オアシス整備事業を事例として−(天野太郎)
67. 都市構造から見たスポーツ施設立地のあり方−前橋市を例に−(新井規之)
68. 地域づくりと新しい複合スポーツの創造−実践研究報告−(小島 茂)


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