日本都市学会第54回大会テーマ
交流人口を活かしたまちづくり
日本都市学会会長 佐々木公明
中四国都市学会会長 藤目 節夫
地方分権が叫ばれるなか、地域自らの主体的な取組による地域振興が緊急の課題となっている。国から自治体への補助金が大幅に削減され、定住人口の増加も企業誘致もほとんど見込めない地方の多くの地域では、交流人口の増加による地域活性化が強く意識され、かつ模索されるようになってきた。かつては交流人口と言えば観光によるものが中心であったが、近年の特徴はこれ以外に多様な交流人口を発生させる試みがなされていることである。たとえば、テーマ性を持ったまちづくり、コンベンション、各種イベント等はその一例である。
観光は交流人口の創出に依然として重要であるが、国民が観光に求めるものは名所旧跡の物見遊山一辺倒から、グリーンツーリズムに代表されるような「田舎のあるがままの姿」へと次第に重心を移しつつある。象徴的に言えば、「はっとする観光地」よりも「ほっとする観光地」が指向されるようになり、個別の観光資源よりも地域住民をも含めたトータルな地域の魅力が重要な意味を持つようになった。それゆえ、観光振興はまちづくりの中で位置づけられるようになり、「観光まちづくり」や「まちづくり型観光」のタームが使用されるようになってきた。
コンベンションや各種のイベントは当初から交流人口の増加を目的とした活動であるが、まちの課題解決やアイデンティティの確立を目的としたテーマ性を持ったまちづくりが結果的に交流人口を飛躍的に増加させる場合がある。たとえば熊本県の水俣市は、水俣病を契機とする地域内の対立を解消する過程で地元に学ぶ地元学の方法論を確立し、全国から水俣のまちづくりと地元学を学ぶ多数の交流人口を生み出した。また福岡県の柳川市は、埋め立て予定であった掘り割りの保存という地域アイデンティティの確立の運動が、結果的に多数の観光客の来訪を招くこととなった。
交流人口を活かしたまちづくりの内容と同時に考慮すべきことは、活動の主体である。これまで長い間、まちづくりは行政がやるものと多くの人が考えてきたが、次第に住民と行政の協働でなされるものとの認識が高まりつつある。たとえば、観光振興はこれまで行政と観光関係団体が中心になり進められ、地域住民への配慮はきわめてわずかであった。しかしグリーンツーリズムが台頭してくる状況では、「田舎のあるがままの姿」を形作る主役は地域住民であり、観光の持続可能性の視点からも住民、行政、関係団体の協働による観光振興が展開される必要がある。
協働のまちづくりは平成の大合併を一つの契機として世に喧伝されているが、全国のまちづくりの主流は行政主導の状態に留まっている場合が多い。しかし、著名なまちづくりで交流人口の増加を達成しているまちでは、例外なくまちづくりは協働でなされており、地域住民が中心的役割を果たしている場合が多い。住民主体のまちづくりで住民が自らと地域に誇りを持ち、それが新たなまちの魅力となってさらなる交流人口を生んでいるのである。残念ながら、このような住民主体のまちづくりの事例は全国的に少なく、実証的研究も未だ蓄積が十分ではない。大会ではまちづくりにおける交流人口の役割に関する理論的、実証的考察に加え、新しいまちづくりの形態としての交流による住民主体の活動の具体例や可能性を検討し、かかるテーマに関する研究成果の発表と活発な議論が期待されるところである。
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